yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

勘九郎、歌昇、児太郎の『戻駕色相肩(もどりかごいろにあいかた)』in 「五月花形歌舞伎」@大阪松竹座 5月16日昼の部

「歌舞伎美人」からの配役とみどころは以下。

<配役>
浪花の次郎作  中村 勘九郎
禿たより    中村 児太郎 
吾妻の与四郎  中村 歌昇  


<みどころ>
時代情緒に溢れた見どころの多い人気舞踊。
 菜の花畑に満開の桜が咲いた京の紫野に、浪花の次郎作と吾妻の与四郎が担ぐ駕籠が島原から戻って来ます。二人がひと休みするところ互いに上方と江戸のお国自慢を始めます。やがて駕籠の中から禿を呼び出し、京、大坂、江戸それぞれの廓話を語っていきます。そのうち、次郎作と与四郎の懐から連判状と香炉が落ちて…。
 色彩美に富んだ常磐津の名作舞踊をお楽しみください。

めっぽう楽しい舞踊劇。江戸前のイキ(粋/意気)が充満している。上方/江戸の対比の妙を魅せる所作事なのだろうけど、全体としてはやはり江戸前。たおやかというよりキリッとした踊り。セリフもイキがいい。

駕籠かきの二人——勘九郎と歌昇——が登場。そもそもこの舞踊劇は「しばらく上方にいた大物の役者が江戸に戻った時、江戸側の大物の役者さんと共演するためのごあいさつ舞台」として、当初設定されたものらしい。「戻駕籠」ということばにそれが窺える。今回のものはおそらく二人の江戸役者が上方に「戻ってきた」という含みなのだろう。

と書いてきて、ここにもっと複雑な奥があることに気づいた。勘九郎の祖父十七世勘三郎は関西歌舞伎に属していたことがあった。それがあるので、「戻り」。さらに歌昇との関係も浮かび上がる。というのも十七世勘三郎の父は三代目歌六で、現歌昇の伯父は五代目歌六。一見は中村屋と播磨屋との組み合わせだけれど、先祖を辿れば上方=関西を媒介にした「歌六つながり」が透けて見える。

となると、勘九郎が五代目歌六の甥の歌昇と組んだところに、ご当地大阪と「歌六」という名跡の所縁が、隠し絵として存在していることがわかる。もちろんこんなことは知らなくてもいいことではある。しかし、累々と続いてきた歌舞伎の家、名跡を一つの「歴史=体験」として見聞してきた観客は、役者とそれを共有することで、より深く楽しむことができるのも事実である。

さて、この駕籠かきの二人。勘九郎は顔を茶色に塗りいかつい感じを出している。一方歌昇は色白の優男。この対照が面白い。一旦休憩することにした二人、駕籠の中に声をかける。中から登場したのは島原の傾城、小車太夫の禿。美しいと感心する二人。ここはどこかと問う禿に、「ここは紫野さ」と答える駕籠かき。すると、この幼い感じの禿、「紫野」はあの額田王御製「紫野行き標野行き、野守は見ずや君が袖振る」の「紫野」かと聞く。禿の衒学ぶりに驚く二人。

やがて駕籠かきの二人は、それぞれに自分たちの街の廓自慢を始める。浪花の次郎作は新町のそれを、吾妻の与四郎は吉原のそれを。次郎作は廓の太夫が客へ贈る羽織を着て、息杖を大小の刀に見立て、丹前六方の振りをする。ここ、勘九郎が粋に決める。禿は京都島原の様子を踊ってみせる。受けて立った吾妻の与四郎は江戸鉄砲見世(最下級の遊女屋)の様子を踊る。すると姉さん被りをした次郎作が、与四郎を客に見立てて口説きかかる。二人で遊女と客とを代わる代わる演じる。羽織が屏風になり、羽織の紐が三味線になる。ここ楽しい。客も一緒に楽しむ「見立て」の趣向、それが最大のみどころだろう。

三人が踊りに興じている時、駕籠かき二人の懐から意外なものが落ちる。次郎作のは連判状、与四郎のは香炉。実はこの二人、次郎作は石川五右衛門、与四郎はは真柴秀吉という因縁のある二人だったという趣向。

仇敵同士、睨み合い、険悪になったところに禿が仲裁に入り、諍いがひとまず落ち着くところで幕。

勘九郎はのびのび、おおらかに踊る。でも大雑把ではなく、手の先にまできちんと意識されているのがわかる。歌昇は「野崎村」の久松の時と違い、グッとアグレッシブ。気が満ちている。彼の踊りは端正。ブレない。何よりも、二人の踊る様子から、名跡と所縁とを背負っていることの重みが、ビンビンと伝わってきて、ちょっとジンとする。児太郎は禿の可憐なおぼこい感じを出していて、それで両雄(?)の緊迫感を緩和する役を演出。三人三様になにがしかの重みを背負っているのだろうけど、この舞台ではあくまでも華やかに踊る、踊る。

若い三人の踊り。この若さと初々しさに、大御所の卓越した老練な踊りにはない花があった。

詞章、内容は十二代目常磐津小文字太夫さんのホームページ、「常に此の 磐に満津る 文字なり」を参照させていただいた。ありがとうございます。